興味深い幼馴染についての話


前回の続き。
前回は一つの命題を複数のキャラクターを以って解き明かすと言う形式を取ったが、
今回は一つ一つのキャラクターをより深く分析すると言う目的を持つ。
ちなみにレインさんについては前回割りとよく語ったので今回は出しません。
まぁレインさん=世界、アレンビー=言葉様の暗黒武闘伝の世界へようこそなネタも出来るがね!
おおっとぉ、しかしその前にドモンタンがいかに可愛いかを小一時間語らなければいけない気もするぞー!


与太話はさておき本題。


永遠の呪い―――長森瑞佳


幼馴染好きが決して忘れてはならない存在の一つは、間違いなく長森であると思う。
約束はどんな形であれ二人の関係を促進させるためのものなのだが、
長森はその逆に二人の約束が二人の関係を無に返す。
浩平にとっては親や妹よりも深く見知った、飽きる事すら超えて馴染んだ顔が、自分の事を忘れ挙句存在を認知すら出来なくなると言うのは非常に衝撃的な構成である。
そしてラストの、長森に膝枕をされながら語り合うシーンが一番の泣き所。
永遠の約束を超えて、一瞬だけ舞い戻った幼馴染、幸福の時間は僅かであった、後に残されたのは虚無。
つい先日までは隣を歩いていたはずの幼馴染は、今は誰からも忘れ去られた存在。
ONEと言う作品について、あのまま長森が浩平を信じ続け、そのまま年を取り老いて死んでゆくエンディングもありじゃねーかなー、とは思いますが。
やはり幼馴染は愛されるべき、最後にはハッピーエンドを。


より強い未来への意志―――西村春菜


しかし、どうしてこう幼馴染=幼い頃の約束という構図に歪みが生じんのか。
恐らく二人の関係を恋人にシフトさせるのに一番楽なやり方なんだろうけど、前回語ったとおりそれは前向きに見えて昔の自分達に無理矢理合わせているだけなので後ろ向きです。
その点について、西村春菜(「青空の見える丘」)は「約束」を極めて前向きに扱った幼馴染といえるのではないかと思う。
二人の約束が、自分のルートだけじゃなく全てのヒロインの物語に関わってくる、と言うのはONEも同じなのだが、
こちらは約束が強制するのではなく、あくまでも能動的な意志が起こす極めて肯定的な未来の招来。
二人の間にかわされた約束は一つだけだ、「強くなる」と言う事。
いつか再会した時見捨てられないように、隣に誰かいたとしても素直に引き下がれるように。
たぶん、エロゲ史上で最強の主人公を選ぶとしたらか秀樹、稟、誠(注・よつのはです)の頂上決戦になるのではないかと思う。
単純にタイマンの強さで言ったらそりゃ九朗や悠人に勝てる筈もないのだが、精神的な錬度に於いてこの三人は恐らく最強。
白々しいものになりやすい「約束」と言う要素も、こういった方向で引き出せば物語に十分な魅力を与えてくれる。
必要なのは過去からの束縛ではなく未来へ進むと言う意志であり、それを忘れない約束を交わしたこの作品は幼馴染の側面から考えて非常に興味深い。
あと春菜は自分のルートと伊織のルートで黒い所見せるよね、素敵素敵。
ある意味自爆だよなぁ、あんなバカ強いメンタル持った奴になってたら素直に引き下がれんわ。



今、生きろ―――野乃崎明穂


もしらばは、幼馴染として、という考え方で見てもあまり面白くないかも。
日常の象徴であった明穂の死と、幽霊と言う形での回帰、むしろ問題にすべきは永劫に続いて欲しいこの瞬間に、いつか終わりを打たねばならない時が来ると言う事で。
挿入歌にも「こんな日がいつまでも続くものではないと」とあるように、明穂を軸にしたもしらばの世界は、
幼馴染を考えると言うよりは人間の在り様を考えるものなのだと思う。
ただ、明穂なしの日常が考えられなかったという点に於いて、明穂は間違いなく幼馴染の概念を体現した存在なのである。



振り返ってみると、今回選出した3人は共通して、何かしらの行為かまたは存在そのものが自分だけではなく全てのヒロインのシナリオに影響を与えている。
本当はよつのはについて真面目に考えたいのですが、よつのはから得られる幼馴染論は非常に難しい。
恐らく雪ちゃんのシナリオに全ての命題が詰まっていて、他の3人はその助走距離、と言うのが正しい見解だと思う。