戦女神VERITA 感想


―――全てのエロゲ主人公はひれ伏すが良い。


いきなり挑発的な前置きになったのだけれど、既にツイッターで何度も愚痴ってしまったが改めて感想といこう。
システム周りに於いて、今回はオート設定が非常に優秀で、これをきちんとしていれば雑魚戦闘はオートだけでどうとでもなってしまうレベル。勿論プレイヤーの臨機応変な対応が必要な場合もあるので、決してプレイヤーの判断をおろそかにしている訳ではない。
例えばボス戦などで顕著だが、戦女神シリーズの戦闘は「強力な攻撃を防御コマンドでしのぎ」「攻撃終了直後、コマンドを解除して反撃する」流れがある。通常のRPGでは軽視されがちな防御コマンドに立派な存在意義があるのだけれど、この使い方は手動でやるしかない。オート戦闘では絶対にやってくれないのだ。
個人的には、アイテムの種類が少ないのがちょっと不満だった。特に幻燐勢は欲しい装備品(特にMランクの武器)が足りておらず、アペンド3があるとしたら追加キャラもダンジョンもいらないからアイテムだけ足してくれ、と愚痴っている。
全体的にボリュームが不足している、という飢餓感がある。自分の中にあるVERITAは決してこれだけではなかった筈だ、という強い確信にも似た感覚があるのだが、やはりこれが完成版なのだろう。ともあれ、シリーズの区切りに相応しい作品であった事に異論は無い。
今回オート戦闘が優秀なお陰でさほどストレス無くプレイできる。十分なレベルを維持することが条件だが、RPGパートが苦手な人でも安心できる設計なのは賞賛したい。


グラフィック面に於いては、そもそもエウゲーは、特に戦女神は特性上、通常のエロゲとは異なる演出理論の上に存在していて、これが嫌らしいくらい決まっているから不満らしい不満が無い。人体の構造がおかしいじゃないかとは時たま言われるが、これは基本的な他のエロゲでも日常的に起こっている事だ。
いや、つまり、圧倒的なイベントCGで説得力を持たせている、と言うのもあるのだけど、構図の切り方が上手いのだ。普通エロゲというものはキャラありきで成り立っていて、だから構図もキャラ中心でなくてはならないのだが、その縛りがないのでかえって自然な構図が成立している。
サウンド面に於いては。一部微妙な気がしないでも無いが、「覇道」(幻燐1のステージBGMのアレンジだ!)が秀逸すぎて何もかもが報われた気がした。序盤からリウイ編で度々ダンジョンBGMとして流れるが、アラケール最終戦ではこれが戦闘BGMとして採用される。間違った選曲ではない。これが非常に正しいのだ。


さて。シナリオである。巷で薄いだのなんだのと言われているが、それはさておこう。
光ルートは、やはり正直気分の良いものではなかった。勿論表面的には救いが多い。サティアエンドを目指したい場合もこちらのほうが都合がいいだろう。ルナ=クリアが救われた事に文句を言いたいのではない。
どうしても、リウイのしている事がアパルトヘイトにしか見えないのだ。今回このシナリオでの愚痴の大半はリウイの言動に起因しているのだが、光ルートは神殿勢に傾いた事で、メンフィル帝国は闇の種族に生き辛い社会となってしまう。日常的に差別を受ける側からして、このような選択が決して正しくは無く、また場合によっては暴力で体制を破壊しようとしても無理からぬ話だ。それが、大団円のように描かれるのが我慢なら無い。「ジャミラを更正したい」とは大怪獣バトルで主演を演じた南翔太の弁であるらしいが、そもそも単なる被害者であったジャミラを「更正」するなど傲慢極まりない発言だと思うのだが、つまりそういう倫理面での脆さを含有しているように思うのである。
それに比べれば闇ルートは実は幾分かましなのだけれど、それでもやはり、因果応報的な結果を与えられるのが癪に障る。まぁこの段階だとリウイは悪役そのものになっているのだが。
と言うわけで、結局自分の評価しうる点は正史ルートのみに限られる訳なのだが、これはもうシリーズをずっと追い続けてきた自分にはたまらないものだった。


原則、エロゲ主人公は「家」について悩む心配が無い。基本的に一軒家が与えられているし、場合によっては両親不在で余計な干渉を受ける事も無い。だから、その「家」が与えられるシナリオは、通常のエロゲシナリオからすれば物足りなくも思うだろう。だが逆に考えれば、それはそれだけ、一般のエロゲ主人公が恵まれていた証拠でもある。
セリカ・シルフィルは世界の敵対者だ。彼が望む、望まずに関わらず神殿勢力は喧嘩を吹っかけてくるし、闇側はその力を利用しようと狙ってくる。安住の地が無く、世界を放浪するのが日常だったとは、本作のみならず「戦女神II」でも言及される。
また、エロゲ主人公にとっての「家」とは、ただ衣食住を機能させるためだけのものではない。その物語での日常面を、時には学校以上に強調するものだ。姉/妹がいれば彼女達が出迎えてくれるし、幼馴染属性も場合によっては事実上の同居に近い事をしてくれる。
セリカがエロゲ主人公らしく女性に言い寄られているものの、その構図は酷く歪だ。そもそもエロゲ主人公はその物語内部では原則一般的な人間であり、多少マイノリティとしての属性が付与されていても、それで社会排除を受けるようなことは無い。歪と言うのなら衛宮士郎だって歪だが、周囲の人間関係は正常だ。
セリカは違う。文字通り世界規模での社会排除を受けているし、長い人生ゆえに顔見知りも数少ない。前作からの引継ぎキャラは地味に多いが、彼が語るとおり、彼の出会う人々は最後にはさようならが待ち受けている。―――KANONのような、奇跡との対価としての別離ではなく。
(この辺りの、人を超える寿命を持ったことでの苦悩は、朝凪のアクアノーツでも題材として取り上げられて苦笑したのは秘密だ。)
ケテ海峡でエクリアが身投げした時の彼のモノローグは、前作ZEROをプレイした身であれば深くその光景を想起させられる。戦女神ZEROはセリカの600年以上に渡る人生の、わずか100年程度を描いたものだが、その短い間ですら、親友、家族、恋人、近しい人たちを、多くは悲劇での別離を余儀なくされた。前作と近作に横たわる数百年を知る術は我々には無いが、具体的な情景はただこのモノローグだけで十分説明し切れてしまうのだ。
そこから。ハイシェラだけでなく、エクリアと言う理解者、レウィニアという母国を手に入れたのである。それは地盤を手に入れたという事だ。長い放浪の果てに安住の地を手に入れたという事である。
戦女神Iの紹介ページに、セリカの母国がレウィニアだとする記述がある。勿論彼はスティンルーラの北の生まれなので厳密には違っているのだが、そこに彼の帰るべき場所がある以上、その記述に何の間違いも無い。家、家族、エロゲ主人公が当たり前に提供されるそれを、彼は長い放浪の果てに手に入れたのだ。陳腐だといってしまえば簡単だが、果たして世界中から存在を否定された彼が、どうしてこれを価値なしと断じられるだろうか?我々が、そして彼らが当たり前に与えられているものは、それ自体が勝者の証だ。歴史的判定、宗教的価値観によって悪と断じられたものに居場所は無い事を失念している。
ゲームの体感時間は実は短い。前作と比較しても短く感じてしまい、超弩級のボリュームにいささかの疑問があったのは事実だ。しかし正史エンドでのラスト、レルン地方へと旅立って行くセリカとシュリに言い知れないものを感じた。グラフィック的な意味での突っ込みどころはあるが*1、そうした問題を一切吹き飛ばすくらい、晴れやかな気持ちで迎えられたラストだった。


つくづくセリカ・シルフィルという主人公は不思議で、たぶん今までプレイした中でトップクラスを爆走中の、というか、二位*2とトリプルスコアとか目じゃ無いくらいの差を開けているくらいに好きな主人公だったりする。
それは彼が単純にマイノリティだから、ではなく、その生き方、人格に強い魅力があるからだろう。
場の空気を読む力、というものが求められるようになって以降、エロゲ主人公もまた大なり小なりそうしたものを求めるし、求められるようになった。言い換えれば彼らは場の空気に支配され、流されているだけであり、その意味では意志薄弱だ。そして器量が狭い。逆に言うとそれがなければ許容できないからだ。逆にセリカ本気で空気を読めないのですごい好感を感じるのだな。それは時に周囲を不愉快にさせるのだろうが、常識が欠如しているからこそ偏見や色眼鏡無く他者を受け入れる余地を常に作っていることでもある。―――基本的にオタクはマイノリティなのだから、こちらのほうが「優しい」はずだろう。
様々な価値観が交錯し、その中で炙れ存在を否定されながら生きる事を宿命付けられるものは、ディル=リフィーナにおいてはさして珍しくない。マリーニャは限りなくアウトローに近いし、シュリは戦災孤児、エクリアは敗戦国の王女だ。IIにて参入するレシェンテも厳密には邪神扱いだし、レヴィアもその立場上気苦労が絶えない事も多い。*3セリカはただマイノリティに属する主人公というだけでなく、マイノリティを保護し、味方にできる主人公でもある。それは、初代ウルトラの時代から悩まされてきた命題―――ヒーローは結局、暴力でしか物事を解決できないのではないか、という命題だ―――に対する一つの答えだし、この完成された主人公像は大切にしていきたい。


これからシリーズがどうなるかは分からないのだけど、作品としては此処で完成を迎えたように思う。伏線は多く取り残されているが、自分はこのVERITAを以ってシリーズの完結と終着を見出した。
総評すると。信者ならやるさ。地を這い蹲ってでも!

*1:主にシュリの身長

*2:だいたい星メアとかFateとかそのへん。士郎も嫌いじゃないのよ。

*3:セリカさんの天然ボケに一番苦労しているってツッコミは無しな。